茶文化録
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■2通のメールから
 2月のメールマガジンです。今月は非常に驚きの問合せメールが2件入りました。 なんと「迷魂湯孟婆茶」 に関する情報を教えて欲しいというメールでした。 正直に言って、 日本の皆さんにはこの「迷魂湯・孟婆茶」という言葉が難しいのではと個人的にずっと思い込んで(失礼!)いますので、 「お茶と喪俗」という話しがなかなか出て来ないのが、この勝手な思い込みがあったのです。
  以前から「お茶と婚礼」、「お茶と仏教」、「お茶と文人」、そして「お茶と喪俗」という 連続的な話しをして行く企画のような物を考えていました。しかし、この「お茶と喪俗」の話しが 文化があまりにも違い過ぎて、たとえ話しても殆どの方には「分からない」という答えが帰って来るのではと 思いましたので、かなり時間がかかりました。
  私達は日本には10年以上住んでいましたが、決して軽々しく「日本の事や習慣、文化がよく分かっています」 という言葉を口にしません。同じく日本の方が中国に5、6年間だけ居て、 中国の事が非常に詳しいと自慢する人が居れば、疑ってしまいます。よその国の文化、習慣などが決して5、6年では理解できる筈がありません。(爆)
  無理を承知の上、難しい話しを更に難しくして見ようと思います(笑)。興味ない方は今月号を飛ばして下さい。しかし、中国茶に興味を持たれる方は「お茶と喪俗」を知っておいて、 何時かはお役に立つ時が来るかもしれません。
  この「お茶と喪俗」を書くに当たって、私は「茶経」という本だけでは資料が少なすぎると感じ、 ここ数日、福建省の親戚に電話して色々聞き廻っています。中国が広い!処が変われば習慣も変わりますので、全ての地方にこれらの喪俗が当てはまらない事を言っておきます。

■無茶不祭
 中国の南では「無茶不祭」という説が定着しています。 今でも福建省へ行けば、必ず「祭る」時にお茶が登場します。また、中国の「祭る」は日本の「祭り」のような賑やか雰囲気と違って、厳粛、神聖さが漂って来ます。中国を旅して現地の人がお線香を持った時の表情を見れば、分かると思います。
  祭るの対象は「天地」、「祖先」と「神鬼」です。この天公、土地公、神明、祖先、鬼についてを詳しく説明すると長くなりますので省きます。 祭天、祭地、祭神、祭仙、祭佛、祭祖、祭鬼...という風に分けられます。
  お茶が飲用の前に「祭」に使われる説が以前からありました。晋からだとか、 いや絶対隋唐の時代からだというのもあります。茶経以外にも民間での言い伝えがたくさんあるようで、 晋からと唱える人は「神い記」を持ち出し、 唐、宋、明、清そして現代の金庸、古龍の武侠小説まで登場して来ます。金庸、古龍の武侠小説を好む方なら結構いい線までいけるかもしれません。私(見聞)は中学生の時、学校の勉強よりも金庸、古龍の武侠小説を読み漁った思い出があります。あの時、大文豪の魯迅よりも武侠小説家の古龍先生を尊敬していました。(爆)

・以茶敬神、以茶祭祖などは地方によって違います。お茶は神様には使いますが敬神、祖先には使えないという、お茶は神聖至上説もあれば、 お茶を「喪」に最も使え、対象は「祖先」という地方もあります。これは、その地方の習慣であり、 どっちが正しいか間違いかの結論はできません。

・祭の時に3茶3酒の処もあれば、3茶6酒の処もあります。田舎の福建では3茶3酒ですが、 お隣の浙江省では3茶6酒です。9は奇数の中で最も大きい数字で、盛大を意味すると説明されました。 盛大ですね、いかにも中国らしい!スケールを重視。だからテーブル一杯の料理を頼み、一杯食べ残しもします。

・祭に使われるお茶も3種類あります。福建の3茶に使うのは「干茶」、つまり茶葉その物です。2つ目は茶湯です。そして3つ目は茶杯だけという形式的な物です。

・台所にも神様がいると言われ、新茶の釜入りが出来た時に、必ず最初に台所の神様にお茶を差し上げるという習慣が今もあります。

・死んだ人の棺桶の中にお茶で作った茶枕が置く習慣もあります。お茶の殺菌、消毒作用を使った例ですが...意味のない事だと否定する 人もいます。いや、それは枕よりも死者へのプレゼントですよという説もあります。 愛茶人はあの世でもお茶を飲むからだという気遣いです。お茶を持たせる習慣があります。

・福建泉州の回族では「七qiao綿」という物があり、「七qiao」は人間の七つの穴という言葉でも分かるように、死者の七つの穴(七孔)を 塞ぐ綿の事です。 この「七qiao綿」の原材料の中にお茶が使われています。また、清の皇帝が死んだ時に、お茶が使われた記録も残っています。


■迷魂湯・孟婆茶
 そして、最後に肝心の「迷魂湯・孟婆茶」です。 (^_^)
 人間はそれぞれ「過去・現在と未来」の「3世」(中国語では「三生」と書きます)があるとされています。 仏教の教えでは過去に「借り」があると「現在」ではその「返し」の為に苦労する、「現在」では殺人などの悪い事をすれば、「未来」は必ず「地獄」に落ち、良い行いをすれば、未来(来世)はまた人に生まれ変わるとか.......
  しかし、人間が死んでまた新しい人に生まれ変わる時に、もし「現在」の事を覚えていれば、大変な事になります! 簡単な話しです:Aさんの祖父が死んで、生まれ変わるとしましょう。しかもたまたままたAさんの家の人に生まれ変わるとしましょう。祖父が死んで、生まれ変わって、今度が子孫になる、変な話しです。 そして、もし生まれ変わる人がもし前世は人に殺されて、恨みを持ったまま、生まれ変わるとしましょう。これも大変です。
  そこで登場するのは「迷魂湯・孟婆茶」です。 生まれ変わる人は「黄泉路」を行き、「忘川」という処を通り、そこにかかっている「奈何橋」を渡り、「望郷台」まで行けば、すぐソバにある「孟婆亭」で「迷魂湯・孟婆茶」を飲んで、今までの事を何もかも綺麗さっぱり忘れて、 生まれ変わるというルールがあるとか。 死者は喜んで迷魂湯・孟婆茶を飲むかどうか、誰にも分かりません!しかし、子孫としては「綺麗さっぱり忘れましょう」というのがよろしくないようです。まあ、死んだとは言え、「関係ない」とは難しいですね。世界中にお墓があるじゃないか、 死んで、奇麗サッパリ忘れられ、或いは「絶縁」状態じゃ、先祖のお墓の意味がなくなるかも。
  そこで神聖の物:お茶の出番です!民間では神聖のお茶を死者に持たせれば、あの世で迷魂湯・孟婆茶を飲まなくても良いと信じられています。別に私は飲んだわけではありませんが、伝説中の孟婆茶は「甘、苦、辛、酸と咸」の5つの味がすると記されています。この5つの味って、人生その物ですね。(^^)

孟婆茶(老地方茶坊)迷魂茶(老地方茶坊)
鬼城で販売された孟婆茶・迷魂茶とパッケージ(写真は小田さまの提供)
鬼城豐都(老地方茶坊)
鬼城豐都

■孟婆粥
 孟婆粥:中国四川省の「豐都」に「孟婆粥」という有名なお粥が伝えられています。 孟婆茶の伝説と全く同じく、あの世へ行く人は必ず食べなければならない物だそうです。 孟婆粥の材料はお米に、茶湯、痩肉とザーサイだそうです。みるからには非常に美味そう。(笑) 私達も何度かその美味しさを再現しようと いろんな中国茶を使って挑戦してみました。結果 :台湾の文山包茶が一番よっかた(合う)ようです。
  同じく鬼城豐都には孟婆像も昔は祀られていました。1988年に新たに「孟婆茶樓」が建てられ、観光客を暖かく迎え入れ ています。普通、決して孟婆茶を飲んではいけませんが、ココの孟婆茶は特別 で、人生の全てを綺麗さっぱり忘れる 恐ろしい物ではなく、悩みだけ忘れようという願いが込められているそうです。旅行で行かれる方は是非お土産に 買って帰って下さい。

イメージ(老地方茶坊)
孟婆粥ではありませんが、お茶を使って色々挑戦して、美味しいかった!


 このように
 お茶は私達の日常生活の中に置いて、ごくごく普通の物であり、また非常に特別 な存在でもあったのです!!!


2002年02月のメールマガジンを元に作成。(続き)

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